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名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和31年(ワ)19号 判決 1956年10月31日

刈谷市大字刈谷字止木新道二番地

原告

加藤達郎

右訴訟代理人弁護士

黒河衛

刈谷市大字刈谷字山の神四十二番地

被告

福島商事合資会社

右代表者無限責任社員

柳晋佑

右当事者間の昭和三一年(ワ)第一九号根抵当権設定登記抹消登記手続請求事件について、当裁判所は次の通り判決する。

主文

被告は別紙目録表示の不動産につき名古屋法務局刈谷出張所昭和二十八年十一月十九日受附第三四二二号をもつてなした原、被告間の同月十八日附根抵当権設定契約を原因とする債権極度額金参拾万円の根抵当権設定登記の抹消登記手続を履行せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め其の請求の原因として、

(一)  原告は昭和二十八年十一月十八日被告との間に、原告所有の別紙目録表示の不動産に、債権極度額金参拾万円の根抵当権設定契約を結び、名古屋法務局刈谷出張所同月十九日受附第三四二二号をもつて其の設定登記を経由した上右契約に基き被告より金参拾万円を借入れ利息は百円に付き一日金三十銭弁済期は一カ月後とし、一カ月毎に更新することを約し訴外加藤裕康は右貸借につき連帯保証をした。

(二)  原告は右債務の弁済が出来なかつたので訴外加藤裕康は昭和二十九年五月十四日金四拾万円、昭和三十年四月九日金六万円合計金四拾六万円を支払い、之をもつて被告との間に右借用金元利金及損害金一切を完済したものと協定した。

右のように原告の被告に対する前記借用金債務は弁済により消滅したので被告は原告に対し右根抵当権設定登記の抹消登記手続を為すべき義務がある。よつて原告は被告に対し之が抹消登記手続の履行を求める。

と陳述し、

立証にして証人熊田乙彦、同加藤裕康及び原告本人の尋問を求め、乙第一号証の成立を認め之を利益に援用すると述べた。

被告は原告の請求を棄却する旨の判決を求め其の答弁として、

(一)  請求原因第一項は之を認めるが、原被告間の根抵当権設定契約には遅延損害金は百円につき一日金五十銭の割合にて支払う旨の特約があつた。

(二)  同第二項中、原告が弁済期に債務の弁済が出来なかつた事実及び訴外加藤裕康が原告主張の各金額を被告に支払つた事実は認めるが、金四拾万円の支払を受けた日は昭和二十九年五月十五日である。其の余の事実は之を否認する。

(三)  原、被告間の本件貸金関係の計算は別紙計算書の通りであつて昭和三十年四月九日現在の計算でも被告は原告に対し金十二万一千四十円の残債権を有するから本件不動産につき設定せられた根抵当権は未だ消滅せず従つて原告の本訴請求は失当である。

と陳述し、

立証として乙第一号証を提出し、原告代表者柳晋佑の尋問を求めた。

理由

原、被告間に本件抵当権設定がなされ之に基き原告は被告から金参拾万円を利息は百円につき一日金三十銭、弁済期は一カ月後とし一カ月毎に更新する約にて借り受けたこと、原告主張の日時頃その主張の金員を保証人加藤裕康を通じて弁済したことは当事者間に争がない。

原告は、保証人加藤裕康が昭和三十年四月九日金六万円を支払つたときに被告との間に之をもつて元利金を完済したことに協定成立したと主張するけれども証人加藤裕康、同熊田乙彦の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合するも右事実を肯認するに足らず却つて乙第一号証及被告代表者柳晋佑の供述によれば却つて右協定が成立するに至らなかつたものと認めざるを得ない。

ところで、被告は本件貸金については、遅延損害金を百円につき一日金五十銭の割合で支払う旨の特約がある旨主張しこの特約に基いて原告主張の金四十六万円の弁済につき別紙計算書の通り元金及遅延損害金に充当した旨陳述するにつき、この弁済充当の適否を考察するに、被告代表者柳晋佑の供述によれば、遅延損害金を百円につき一日金五十銭の割合で支払う旨の特約があつたことは之を認めることが出来る。しかし乍ら百円につき一日金五十銭(年拾八割余)というような高率の遅延損害金は、特別の事情のない限り借主の窮迫、軽卒又は無経験に乗じて為されたものと推定するを相当とすべく従つて特別の事情の認むべきものなき本件においては本件貸金の後に施行せられた「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」第五条が百円につき一日三十銭の割合を超える利息或は遅延損害金の予定の特約につき刑罰を以て臨むに至つたこと、又昭和十九年三月十四日大審院判決(大審院民事判例集第二三巻一四七頁)が「手形金百円につき一日金三十三銭の割合による遅延損害金は良俗に反するものと認むべく利息制限法の適用なき場合と雖も民法第九十条の適用あること勿論であり右の如き特約は善良の風俗に反する限度に於ては無効である」との趣旨を判示していることに徴し百円につき一日金三十銭以上の部分については公序良俗に反し民法第九十条により無効であると解すべきものとする。

よつて被告提出の別紙計算書中(2)の金拾八万円の遅延損害金は之を百円につき一日金三十銭の割に引直して計算するを相当とするから金拾万八千円を相当とする。従つて(3)は合計金四拾万八千円となり(4)の入金を差引くときは残元金は八千円となる。次に之に対する昭和二十九年五月十六日より昭和三十年四月九日金六万円の入金迄三二九日間一日につき金三十銭の割合による遅延損害金、(6)は金七千八百九十六円となる。よつて(7)は合計金壱万五千八百九十六円となり、之に対し金六万円の入金があつたので差引金四万四千百四円の支払超過の計算となる。以上の如く被告は本件貸金については既に元利金全部の完済を受けたものと認容すべきものであるから被告は原告に対し本件根抵当権設定登記を抹消すべき義務あるものと謂わなければならない。

よつて原告の本訴請求は結局相当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決する。

名古屋地方裁判所岡崎支部

裁判官 織田尚生

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